2016年6月22日。今日は青ヶ島を去る日である。
日本でもここだけのヘリコプターの定期便が飛んでいる。
それで八丈島まで帰るのだ。
朝、テレビをつけてヘリポートの様子を見る。
・・・・・・。
真っ白だ。
青ヶ島に1日や2日閉じ込められるのはよくあることだ。
長ければ1週間、2週間閉じ込められた人もいると聞く。
しかし、まさか自分が閉じ込められるとは思いはしなかった。なんとなく自分は無事に帰れる。そうのんきに考えていたのだ。
いや、まだ諦めるのは早い。ヘリを運航する東邦航空の発表を待たなければならない。
結構出発ギリギリまで天候調査をしているようで、搭乗受付開始時刻20分前に電話しても、天候調査中なのでもう少し待ってくれと言われた。
しかし、外を見てもこの濃霧だ。
素人が見てもヘリを飛ばせない状況だと分かる・・・。
スマホに電話がかかってきた。
「もしもし、青ヶ島ヘリポートですが、今日のヘリなんですけど・・・欠航になりました」
分かっていたが、旅行でこれほど落ち込んだことがあるか。
自分は青ヶ島に閉じ込められたのだ。
「まだ決定ではないんですけど、夕方に臨時便を飛ばすかもしれません」
ありがたいことに、閉じ込められた人のために臨時便を出してくれるらしい。詳しいことはまた連絡するとのこと。
宿の女将さんに事情を話して、お昼ごはんを用意してもらうことに。
それにしても酷い雨だ。
耳を塞いでも雨音がうるさい。
大雨だから外へ出るわけにもいかない。
テレビとネットしかやることがない。
ぽちぽちとネットを見ていると、日本はどこもかしこも大雨のようだ。
九州や西日本が特に酷い。
ここでも自分は、まさか自分のいる青ヶ島が大変なことになっているとは気づいていなかった。
青ヶ島の各家庭には防災無線が流れるスピーカーが設置されている。役場などからの放送がはっきり聞こえるようになっている。
そのスピーカーから・・・
「現在、青ヶ島村に大雨特別警報が出ています。避難所を開設しましたので、避難される方は役場に連絡をください。車で迎えに行きます」
と流れ始めた。
大雨特別警報・・・避難勧告・・・穏やかな瀬戸内で育った自分には縁のないものだと思われた言葉。
島に閉じ込められただけでも不安で仕方ないのに、雨の音と防災無線の声が不安を増幅させる。
えっと・・・避難しなければならないのかな??
そう思ったけどほかの部屋の人たちも静かだし、食堂ではお昼ごはんを作っているようだった。
とりあえず部屋で大人しくする。
雨はやがて小降りになった。
気分も落ち着いたら腹が減った。
ヘリに乗る予定だったので、朝食を食べる時間がなかったから朝は何も食べていなかった。
お昼ごはんまで残り何分かずっと時計を見てた。
12時になるとすぐ食堂へ向かった。
仕事できてる人たちも、これだけ雨が降れば仕事はできない。食事しか楽しみがない人たちである。もちろん自分もそうである。
写真を撮ることすら忘れてお昼ごはんを食べた。
食堂のテレビで見たことのある景色が流れていたが、青ヶ島での大雨を伝えるニュースだった。
まさか自分が旅行してるところが全国ニュースで流れるとは・・・。
本当に自分はとんでもない厄でもついていて、下手したら島民が死んでしまうんじゃないかと思い始めた。
腹は減っているはずだったが、喉を通りにくかった。
食事を済ませ、あまり眠れなかったので少し寝たいと思ったが、臨時のヘリが気になって眠れない。
外は相変わらず酷い霧だが、雨は止んだみたいだ。
今のうちに買い物を済ませようと思って外へ出た。
外に出て改めて霧の濃さを思い知った。
こんなに濃い霧は釧路で見て以来だ。
50メートル先もはっきりと見えない。
不安な気持ちになる。雨は止んだがまだ警報は出たままになっている。
気をつけて近くの商店まで歩く。
工事現場も人影はない。
この大雨では何もできないよな・・・。
風に揺れるブルーシートが不気味だった。
怖い・・・。
早くお店に着かないかな。
そう思いながら歩いた。
お店に着いて、食品とお水を買う。
ついでにお店の人に、この時期はこんなに濃い霧が普通に出るものなのか聞いてみたが、やはり
梅雨の時期は霧に覆われることが珍しくないと言う。
「もしかして何日も霧が晴れないこととか・・・?」
「ありますよ」
淡々と話す若い女性店員さんが怖い。
梅雨の時期は船よりヘリの方が欠航が多かったりするのだという。
まいったなぁ・・・。
船は水曜と木曜は島には来ない。
だから、ヘリが欠航になれば必然的に島に閉じ込められることになる。
ヘリが来ないから船で帰るということはできない。
私はヘリの就航率が8割という情報のみを信じて、梅雨の時期の恐ろしさを知らずに来てしまった。
自分は昨日、地熱釜で会った作業服のお兄さんを思い出していた。
あの人たちはギリギリ島から脱出して、多分今ごろテレビで青ヶ島に大雨が降ったというニュースを見て「危なかった」と言っているかもしれない。
島を出られた人と出られなかった人・・・。
霧の中を歩いて宿に戻った。
宿に戻ったところでテレビを見るぐらいしかやることはない。
老人のような生活を体験している。
15時30分、再び航空会社から電話がかかってきた。
聞かなくても分かっている。雨は止んでも外は真っ白だ。
やはり、臨時便も欠航だという。
確定した・・・。
これで今日は島から出られない。
島に閉じ込められることが確定した。
航空会社は明日の早朝に臨時便を出すことを検討しているという。
ありがたく思うが、飛ぶかどうかの不安に耐えなければならない。
宿の女将さんに、臨時のヘリも飛ばないのでもう1泊することを伝えた。
雨は昼頃に止んでから降っていない。
避難勧告も解除され、避難所も閉鎖となった。
17時。やることがないので風呂に入る。
雨で気温が低い青ヶ島だが、湿度は90パーセント以上あるから体感温度は高い。
商店に買い物に行っただけでも汗をかいた。
風呂から出ると、入れ替わりに別の人が入ってきた。
年配の男性で、自分が島に来たときから顔を合わせている。
「もしかして閉じ込められてしまいました?」
と聞いてみると、やはりおじさんも今日のヘリで帰る予定だったみたいで困っていた。
しかし、おじさんはあまり不安に思ってない感じだ。
18時になると夕飯の時間だ。もう食べることしか楽しみがない。
明日の不安からか、写真も撮っていない。
メニューはきんぴらごぼう、大根と練り物の煮物、お刺身、お好み焼きだった。
女将さんが、キャベツをもらってきたのでお好み焼きにしたと言った。
ちょうど味の濃いものが食べたかったのでありがたい。
夕飯を食べ終えたらもうやることはない。
テレビを見るしかないので、ひたすらテレビを見た。
下手をするとテレビを見ない日だってあるから、こんなにテレビを見たのは久しぶりだった。
テレビはあまり面白くなかった。
明日はヘリが飛ぶことを願って、不安な気持ちで布団に入った。
あと、焼肉が食べたい。
本土に戻ったら焼肉を食べるのだ。
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